みなさん、感染症の治療において臓器移行性をどれくらい意識して抗菌薬を選択していますか?
今回は、抗菌薬の臓器移行性について考えてみたいと思います。
臓器移行性の意味と重要性
「臓器移行性」とは、抗菌薬が血液を通じて体の様々な臓器へ到達し、そこで起きている感染症の治療を行う能力のことを指します。臓器ごとに必要な薬剤の濃度は異なり、十分な量が届かなければ治療することはできません。例えば、尿路感染症であれば腎臓や膀胱への移行性が、呼吸器感染症であれば肺への移行性が求められます。適切な抗菌薬の選択と投与量の設定は、これらの臓器移行性を考慮に入れて行われる必要があります。
ただし、臓器移行性だけで抗菌薬の効果は規定されているわけではないことには注意が必要です。例えば、膿瘍形成などがあれば外科的ドレナージがなされていなければ、例え移行性の良い抗菌薬を使用していても治療することはできません。
臨床現場で、臓器移行性を考慮するのは抗菌薬が移行しにくい、以下の4つの臓器感染症です。
- 中枢神経
- 前立腺
- 眼内
- 骨
第1回目は、中枢神経感染症について触れていきたいと思います。
中枢神経感染症
中枢神経系の感染症は、髄膜炎や脳膿瘍など重篤な疾患が含まれます。これらの治療に際しては、効果的な抗菌薬の選択が極めて重要です。適切な薬剤が用いられない場合、重大な後遺症を残したり、最悪のケースでは命を脅かすこととなります。そのため、中枢神経系への移行性が高い抗菌薬の理解と選択は、臨床現場において欠かせない知識となります。
なんといっても中枢神経への移行性の最大のハードルは血液脳関門になります。この物理的な障壁を能動的に通過できる特性を持つ抗菌薬の選択が重要になります。血液脳関門を通りやすい薬剤に関しては以下のような特徴があります。
- 分子量が小さい
- 脂溶性
- タンパク結合率が低い
- 能動輸送:血液脳関門の排出のトランスポーターの基質とならない薬剤
- 中枢神経での代謝されにくい
抗菌薬の中枢移行性
これらを踏まえて一般的には、中枢移行の良いもの、炎症があれば移行するもの、移行の悪いものに分類されます。
中枢移行性の良い薬剤 | リネゾリド メトロニダゾール フルオロキノロン(シプロフロキサシン: グラム陰性桿菌、モキシフロキサシン:結核菌) イソニアジド ピラジナミド フルコナゾール |
炎症があれば中枢以降のある薬剤 | ペニシリン系 第三世代・第四世代のセファロスポリン カルバペネム系 バンコマイシン マクロライド |
中枢移行の悪いもの | クリンダマイシン ダプトマイシン アミノグリコシド(軽度から中等度の炎症では有効な髄液濃度を得ることができない) |
使用頻度の高いβラクタム系抗菌薬ですが、髄膜に炎症がない時のAUCCSF/AUCSは0.15を下回ると報告されており、低いものとなっています。(AUCCSF/AUCS: ざっくり言うと、静脈注射後の髄液中に取り込まれる薬物量と血液中の薬物量の比。数値が高いほど髄液移行が良いと言えます)
参考までに、主な抗菌薬の血清中濃度に対する髄液中濃度の割合について下記に示します。
抗菌薬 | 炎症がある時の血清中濃度に対する髄液中濃度の割合(%) |
PCG | 5-10 |
ABPC | 13-14 |
CEZ | 1-4 |
CMZ | no data |
CTRX | 8-16 |
CTX | 10 |
CAZ | 20-40 |
CFPM | 10 |
MEPM | 21-39 |
CPFX | 26 |
LVFX | 30-50 |
CAM | no data |
ST合剤 | S 40/T 50 |
DOXY | 26 |
MINO | no data |
VCM | 7-14 |
LZD | 60-70 |
DAP | 0-8 |
MNZ | 45-89 |
一方で、中枢移行の良い薬剤は中枢神経系の副作用もあるため注意が必要です。特にイミペネム(痙攣など)やメトロニダゾール(小脳失調症など)、セフェピム(意識障害など)は有名です。
まとめ
中枢神経感染症における抗菌薬の選択は、血液脳関門を通過する能力を考慮しなければいけません。しかしながら使用の際には、原因微生物の薬剤感受性、副作用や相互作用などを加味して選択する必要があります。
参考資料
Penetration of drugs through the blood-cerebrospinal fluid/blood-brain barrier for treatment of central nervous system infections. Clin Microbiol Rev . 2010 Oct;23(4):858-83. PMID:20930076
Sanford guide. App version 6.4.11. Last content sync date Feb 23, 2024
Antibiotic diffusion to central nervous system. Rev Esp Quimioter. 2018 Feb; 31(1): 1–12. PMID:29390599
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