腸球菌の持続菌血症 State-of-the-Art Review

ジャーナルクラブ

米国感染症学会のフラッグシップジャーナルであるClinical Infectious Diseases(通称: CID)中でState-of-the-Art reviewというコーナーがあります(今年の9月くらいからできた?)。これは臨床上コントラバーシャルな内容について第一線で活躍する臨床医が情報提供をすることを目的としたものです。

今回は”腸球菌の持続菌血症”が取り上げられています。

State-of-the-Art Review: Persistent Enterococcal Bacteremia. Clin Infect Dis. 2023.  https://doi.org/10.1093/cid/ciad612 PMID: 38018162

腸球菌は尿路感染症や胆道系感染などで遭遇しますが、感染性心内膜炎の原因菌であったり、普段は病原性がそれほど高くないにも関わらず持続菌血症となると厄介な微生物ですよね。一般的には、Enterococcus faecalisE. faeciumが代表的です。E. casseliflavus(黄色い腸球菌としても有名!)やE. galllinarumはバンコマイシン自然耐性です。菌血症は高齢者や基礎疾患のある患者にみられ、30日死亡率が20-35%と報告されています。また内因性の耐性のためセフェム系は耐性であることが有名ですし、抗菌薬の選択が限られています。

さてそんな腸球菌の持続菌血症に関する論文の内容に触れていきます。早速論文のまとめですが

  • 腸球菌菌血症の10数%で持続菌血症となりうる。
  • 持続菌血症のリスクは、好中球減少症、ソースコントトールができていない、血液悪性腫瘍、血液透析患者、VRE。
  • NOVAスコアやDENOVOスコアをつけて感染性心内膜炎のリスク評価を。
  • 治療困難の要因はバイオフィルム形成。
  • 持続菌血症における抗菌薬の追加や併用が予後を改善するというデータは限定的。

持続菌血症の定義、過去の報告

持続菌血症の明確な定義はありませんが、一般的には最初の血液培養の後に採取された血液培養で再度陽性となった場合に持続菌血症とみなされます(Dr.MON注:過去の報告は論文によって持続菌血症の定義が異なるので注意が必要です)。

血液培養複数回陽性の患者は1回陽性の患者と比べて感染に起因する死亡率が優位に高い[PMID: 25027071, 26388037]。

・腸球菌菌血症の平均菌血症期間4日で、12%の患者で5日間以上陽性[36045800, 36038096]

・72時間以上の適切な抗菌薬投与しても13.5%の患者で血液培養持続陽性 [PMID: 35569757]

・VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)菌血症では、8.1%が7日間以上持続陽性。

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)はバンコマイシン感性腸球菌に比べて持続菌血症(=適切な抗菌薬を48時間以上投与するも血液培養が4日以上持続するもの)となる割合が高い(21.4% vs 15.3%)

腸球菌性感染性心内膜炎では、7日以上抗菌薬投与後に13.4%に持続菌血症がみられた。これは他の原因菌による感染性心内膜炎と同程度(11.4%)であった。[PMID:32029130]

好中球減少症患者における腸球菌菌血症では、7日以上経過しても血液培養陽性となるのが13.2%、適切な抗菌薬を72時間以上投与しても陽性となるのが6%であった。[PMID: 24164924, 30821562]

コメント+Dr.MON私見
持続菌血症のスタンダードな定義はない。
しかし腸球菌持続菌血症の割合は、適切な治療を行なっても10数%で起こりうる。
持続菌血症の因子が、宿主なのか菌なのか臨床的要因(感染性心内膜炎など)なのかは明らかとなっていない。

持続菌血症の臨床的要因

腸球菌持続菌血症と臨床転帰(死亡など)との関連は指摘されているが、持続菌血症が予後不良の主たる要因なのか、その代わりに宿主の免疫状態や感染の重症度を示すマーカとして機能するのかは不明である。また研究による持続菌血症の定義が異なることも解釈を難しくしている。

腸球菌持続菌血症患者は非持続菌血症患者と比べて30日死亡率が高い(32% vs 18%) [PMID:35569757]

・VRE持続菌血症と非持続菌血症ではそれぞれ院内死亡率が高い(58% vs 40%)。ただし、持続菌血症では好中球減少患者血液培養4回中4回陽性ソースコントロールができていない患者が多かった。

・腸球菌菌血症の院内死亡リスクは、微生物学的治療失敗(48時間以上抗菌薬投与かつ4日以上しても血液培養陽性)、Pitt菌血症スコア上昇好中球減少膀胱留置カテーテルVREであること[PMID: 35155713]

抗菌薬感受性

E. faecalisE. faeciumも、内因性の耐性は単一の低親和性ペニシリン結合タンパク質(PBP)、PBP4(E. faecalis)またはPBP5(E. faecium)の発現と関連している。

腸球菌感染症の治療に臨床的に使用可能な抗菌薬には、アンピシリン、ペニシリン、ピペラシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、リネゾリド、チゲサイクリン、オリタバンシン、テラバンシン、キヌプリスチン・ダルフォプリスチン(E. faeciumのみ)などがある。

VRE菌血症の治療薬としてFDAで承認されているのはリネゾリドのみです。

腸球菌に対して使用される抗菌薬(本文Table2より意訳)

抗菌薬コメント
アンピシリンペニシリンアレルギーのない患者で、感受性があれば第一選択薬。いくつかのE. faecalis株には殺菌的効果あり。E. faeciumのほとんどに活性がない。
ペニシリンE. faecalisでペニシリン耐性、アンピシリン感性の報告が増加しており、アンピシリンよりも効果は劣る可能性がある
ピペラシリンin vitroでペニシリンと同様の活性を持つ
セフタロリンE. faecalisに対してin vitroで活性があるが、現在臨床における役割ははっきりとしない。
セフトリアキソン/セフォタキシムE. faecalisの感染性心内膜炎においてアンピシリンと併用で有用。
バンコマイシンバンコマイシン耐性オペロンを獲得していない株に対して有効。効果は静菌的。E. gallinarumE. casseliflavusは自然耐性
ダプトマシンほとんどのE. faecalisE. faeciumに対して活性がある。殺菌的。治療中に耐性が出現することが報告されている。そのような株では曝露がないにも関わらずバンコマイシンに耐性を示す。
リネゾリド静菌的。観察研究では重症の腸球菌感染症で有用性が報告されている。
チゲサイクリン達成可能な血清レベルで菌血症の治療はできない。
キヌプリスチン・ダルフォプリスチンE. faeciumに対してのみ活性があル。局所の血管毒性、筋毒性があり使用げ限定される。

E. faecalisによる感染性心内膜炎に対してペニシリン単独での治癒率は約40%[PMID:13182750←これ1954年の論文です!]。アミノグリコシド併用により治癒率は70%以上に上昇。

近年はアンピシリン-セフトリアキソンの併用療法により、アミノグリコシ併用療法と同等の治癒率が示されています。この正確なメカニズム(セフェム系は自然耐性なのに有効である理由)は不明ですが全てのPBPを阻害している可能性が指摘されています。ただし感染性心内膜炎以外の重症感染症に対しても同等の臨床的有用性があるかは不明です。

腸球菌では、獲得耐性が一般的にみられます。

オキサゾリジノン系抗菌薬による耐性は、抗菌薬の曝露によるリボソームRNA遺伝子の変異が一般的ですがプラスミドを介した耐性獲得もありえます。

ダプトマイシンに対する耐性は、ダプトマイシンの曝露により膜電荷の変化したものが選択される可能性があります。

E. faecalisにおけるアンピシリン耐性はまれですが獲得性のβラクタマーゼ産生によって起きえます。

バンコマイシン耐性は、獲得性のバンコマイシントランスポゾンの発現によるものです。理由はわかっていませんがバンコマイシ耐性のE. faecalisは稀です。

病原性

腸球菌は、S. pyogenesS. pneumoniaeS. aureusなどと比べると病原性が低い病原体と考えられています。常在菌から病原菌となる因子については以下の論文を参考にとのこと。

Pathogenecity of enterococci. Microbiol Spectr 2019;7:10.

Model systems for the study of enterococcal colonization and infection. Virulence 2017;9:1525-62.

主な病原性はバイオフィルムの形成です。バイオフィルムを形成することにより抗菌薬の感受性を低下させます。バイオフィルムに対する抗菌薬はなく、可能な限りのデブリードマンと人工物の除去が重要です。

病原性と薬剤耐性の関係に関しては、一般的に耐性の獲得すると”fitness”と”病原性”が低下します。ただし臨床において薬剤耐性が病原性を低下させることを確認するのは困難です。

腸球菌はヒトの腸内細菌叢に相当数存在しますが、腸内細菌に占める割は比較的小さい。抗菌薬投与下では腸球菌が優勢となり、血流感染や肛門周囲の感染を起こしやすくなります(特に免疫不全患者や尿路に人工物がある患者)。セフトリアキソン(胆汁中の濃度が5000μg/mLを超える)などの消化管から分泌されるセファロスポリンや抗嫌気性菌薬などは腸管内の腸球菌のコロナイゼーションや感染と関連しています。

診断

持続菌血症に関する宿主因子としては、好中球減少症アクティブな血液悪性腫瘍血液透析などである。

中心静脈カテーテル感染に起因する腸球菌菌血症は、持続菌血症と関連していない(おそらくソースコントロールがスムーズになされるため)。

NOVAスコアDENOVAスコアは、感染性心内膜炎のリスクが低い患者において、心内膜炎を除外し、経食道心エコー検査を回避する目的に開発されている。

■NOVAスコア:血液培養陽性数3セット以上(5点)、感染経路不明(4点)、弁膜症(2点)、心雑音(1点)で合計が4点以上なら経食道心エコーを実施する。
■DENOVAスコア:NOVAスコアの改訂版
   血液培養陽性数2セット以上(1点)、感染経路不明(1点)、弁膜症(1点)、心雑音(1点)、症状の持続時間が7日以上(1点)、塞栓(1点)で合計が3点以上なら経食道心エコーを実施する。

新しい感染性心内膜炎ガイドライン(DUKE -ISCVID、2023年)では、E. faecalisは感染性心内膜炎の典型的な病原体として追加されています。E.faecalis菌血症の26%が感染性心内膜炎を有しているという報告もあリマス。

持続菌血症(72時間以上抗菌薬を投与しても血液培養陽性)の39%で感染フォーカスを同定できていない。

治療戦略

持続菌血症となった場合は、感染巣が明らかとなることが多い。

腸球菌によるカテーテル血流感染症では、カテーテル抜去後7日間の抗菌薬投与は適切な治療となります。サルベージ療法としては、全身抗菌薬投与+抗菌薬ロック療法も考慮すべきです。

腸球菌による骨関節感染症は、持続菌血症の原因ともなりうる。腸球菌性人工関節感染症の最適な治療法は未だ不明である。またインプラントを残したままデブリドマンを行うのか1期的もしくは2期的インプラントの交換を行うか、抗菌薬を単剤でいくのか併用で行くのかなど議論がある。

適切なもしくは徹底的にフォーカスを探しても、フォーカスが不明な持続菌血症もある。この場合、患者の免疫状態を改善する以外には、抗菌薬を変更するの唯一残された治療戦略である。ただしこの際必ずしも併用療法が有効性を高めるわけではない

持続菌血症となったり塞栓症状がある患者において、アミノグリコシド、バンコマイシン、ダプトマイシン、リネゾリド、チゲサイクリン、キンプリスチン-ダルホプリスチンなど代替や追加抗菌薬の選択肢は限られている。これらの薬剤への変更もしくは併用療法に関する臨床データは限られている。ダプトマイシンは感受性ブレイクポイントの懸念や高用量で臨床転帰を改善することが報告されている。

重度の免疫不全では、宿主免疫の回復または改善なしに菌血症を解除できない可能性がある。このような場合数週間から数ヶ月間抗菌薬投与によって耐性化が懸念される。

将来の課題

持続菌血症や重症感染症の原因となる宿主因子や病原性の解明。

腸球菌に対する抗菌薬の相乗効果のメカニズムの解明。

新規の治療薬(オリタバンシン、ダルババンシン、エラバサイクリン、オマダサイクリン、テジゾリド、セフタロリン、ホスホマイシン)は腸球菌に対して活性を示すが、単剤もしくは併用での臨床効果は不明である。

VREの初期治療薬。

リファンピシンやバイオフィルム活性薬剤の役割

まとめです。

  • 腸球菌菌血症の10数%で持続菌血症となりうる。
  • 持続菌血症のリスクは、好中球減少症、ソースコントトールができていない、血液悪性腫瘍、血液透析患者、VRE。
  • NOVAスコアやDENOVOスコアをつけて感染性心内膜炎のリスク評価を。
  • 治療困難の要因はバイオフィルム形成。
  • 持続菌血症における抗菌薬の追加や併用が予後を改善するというデータは限定的。

State-of-the-Art Review: Persistent Enterococcal Bacteremia. Clin Infect Dis. 2023.  https://doi.org/10.1093/cid/ciad612 PMID: 38018162

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