成人における麻疹(はしか)の注意喚起:見過ごされがちなリスクとその対策

感染症

2024年3月12日に東京都内で海外渡航歴のある幼児の麻疹の感染が報告されました。

その後、国内で相次いで麻疹が報告されており、感染された方は麻疹患者と同じ飛行機や新幹線に乗っていたと報道され、皆さんの関心が集まっている感染症の一つとなっています。そのため患者さんからの麻疹に関する問い合わせなども増えています。

本日のポイントは、”麻疹に対する免疫がなければ100%発症し、麻疹のワクチンを2回接種していれば97%予防できる”です。

麻疹の特徴は、下記の3つです。

  1. 感染力が強い
  2. 潜伏期間が長い
  3. 治療薬はないが、ワクチンによる予防効果が高い

麻疹の感染力は極めて強く、麻疹に対する免疫を持っていない人が感染している人に接するとほぼ100%感染します(不顕性感染はありません)。しかも空気感染なので、通常のマスクでは予防効果はなく、同じ空間にいるだけで感染します。感染力の強さを示す指標として基本再生産数というものがありますが、麻疹は12-18とされています。これは1人が感染すると、周りにいる12〜18人が感染することを表します。爆発的な感染拡大を示した新型コロナウイルス感染症でさえ基本再生産数2-3ですので、文字通り桁違いの感染力ですね。

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典型的な経過は、(カタル期)→(発疹期)→(回復期)です。

(カタル期)まず初めに発熱、咳、鼻汁、結膜充血などの風邪症状が出現します。この時期をカタル期とよびます。カタル(ドイツ語)とは、粘膜の滲出性の炎症を意味します、つまり鼻水ジュルジュル、痰が出たり、結膜炎などの症状です。この時期では他のウイルス感染症と区別がつきません。この時期にコプリック斑と呼ばれる口腔内の粘膜に小さな白い斑点が見られることがあります。

(発疹期)3-4日のカタル期が続き、解熱傾向がみられそのまま治るかな?と持ったら、症状が再燃し、発疹が顔面、上肢、胸部に広がり(頭部からはじまり体の方に広がってくるのが特徴です)、症状が4-5日続きます。

(回復期)その後発疹は癒合し、赤色の発疹も徐々に退色していき治癒します。

麻疹には治療薬がなく、基本的に対症療法となります。

また麻疹患者の約3割に合併症が起こると報告されており、肺炎や脳炎などの重篤な合併症を起こす可能性があります。重篤な脳炎(SSPE :亜急性硬化性全脳炎)は、感染から5〜10年後に約10万人に一人起こります。症状としては、性格変化や高度の認知機能低下が起こり、自律神経症状(高体温、発汗異常など)をきたし、最終的には死に至ります。

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潜伏期間は10-12日間と長いため、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などのように2-3日程度で症状が見られることはありません。

成人における麻疹のリスク

2015年に世界保健機構(WHO)によって日本は麻疹の排除状態にあることが(適切なサーベイランスが存在する国、または地域において12ヶ月間以上伝播を継続した麻疹ウイルスが存在しない状態)認定されました。それでも、近年成人を中心とした麻疹の発生事例が報告されています。新型コロナウイルスの流行による人の往来制限で一時的に報告者数が減少しましたが、制限緩和後の2023年には再び増加しています。世界的にも麻疹患者が増えており、特に海外からの輸入例や免疫のない人での発生が問題となっています。

麻疹は、ワクチンによって予防がほぼ可能な病気で(予防効果97%)、その効果は20年以上続きます。ただし生まれ年によってワクチン接種歴に大きな差があります。日本では1972年9月30日より前に生まれた人は、1度もワクチンを接種していな可能性があります。一方で2000年4月2日以降に生まれた人は、2回の定期接種を受けている可能性が高いです。母子手帳を見て確認してみましょう。

生年月日対応
1972年9月30日以前・一度も接種していない可能性が高い年齢
・感染して抗体を持っていることが明らかな人以外では、計2回のワクチン接種が推奨されます
1972年10月1日から1990年4月1日・定期接種としては1回しか接種していない年代。
・合計2回の接種を受けていない人は追加接種が推奨されます。
1990年4月2日から2000年4月1日・接種率が低かったため、2回目を接種していない可能性があります。
・合計2回の接種を受けていない人は追加接種が推奨されます。
2000年4月2日以降・定期接種として2回接種を受けている年代。
・合計2回の接種を受けていない人は追加接種が推奨されます。

まとめ

成人における麻しんの感染リスクは見過ごされがちですが、十分な注意が必要です。生まれ年によって異なるワクチン接種歴を持つ日本の人々は、自身の接種歴を確認し、必要に応じて追加接種を検討することが推奨されます。ワクチン接種による免疫獲得は、麻しんの予防において最も効果的な手段となります。

Measles Cases Are Spreading in the US—Here’s What to Know. JAMA 2024;331:901-2. PMID: 38416510.

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