以前、感染症の臓器移行性について書きました。
臓器移行性を考慮した抗菌薬の選択ー(1)中枢神経感染症(https://infectioninsights.blog/cns/)
今回は前立腺移行性について解説していきます。
前立腺感染症
前立腺の感染症、特に急性細菌性前立腺炎は重篤な状態に発展する可能性がある疾患です。適切な治療が行われない場合、慢性化や膿瘍形成などの合併症のリスクが高まります。そのため、前立腺組織への移行性が高い抗菌薬の理解と選択は、臨床現場において欠かせない知識となります。
前立腺への薬物移行性の最大のハードルは前立腺上皮細胞になります。この生理的な障壁を効果的に通過できる特性を持つ抗菌薬の選択が重要になります。前立腺組織へ移行しやすい薬剤には以下のような特徴があります。
- 脂溶性が高い
- イオン化度が低い
- 解離定数が高い
- タンパク結合率が低い
- 分子サイズが小さい
これらを踏まえて一般的には、前立腺移行の良いもの、炎症があれば移行するもの、移行の悪いものに分類されます。
前立腺移行性の良い薬剤 :フルオロキノロン系(シプロフロキサシン、レボフロキサシン、オフロキサシン)、 トリメトプリム 、ドキシサイクリン、 エリスロマイシン、 クリンダマイシン
炎症があれば前立腺移行のある薬剤 :ペニシリン系、 第三世代・第四世代のセファロスポリン、 カルバペネム系
前立腺移行の悪い薬剤: アミノグリコシド系、 βラクタム系(炎症がない場合)
参考までに、主な抗菌薬の血清中濃度に対する前立腺組織中濃度の割合について下記に示します。
抗菌薬 | 前立腺移行性(%) |
---|---|
シプロフロキサシン | 25-75% |
レボフロキサシン | 50-100% |
トリメトプリム | 50-100% |
ドキシサイクリン | 40% |
エリスロマイシン | 高い(具体的な数値なし) |
クリンダマイシン | 高い(具体的な数値なし) |
アミノグリコシド系 | 低い |
βラクタム系 | 低い |
一方で、前立腺移行性の良い薬剤にも注意が必要な副作用があります。特にフルオロキノロン系抗菌薬は、腱障害や中枢神経系の副作用(めまい、頭痛、不眠など)に注意が必要です。
まとめ
前立腺感染症における抗菌薬の選択は、前立腺組織への移行性を考慮しなければいけません。しかしながら使用の際には、原因微生物の薬剤感受性、副作用や相互作用などを加味して選択する必要があります。また、急性前立腺炎では炎症により組織の透過性が亢進するため、通常は移行性の低い抗菌薬でも効果を発揮する可能性があることにも留意しましょう。
Penetration of antimicrobial agents into the prostate. Chemotherapy. 2003 Dec;49(6):269-79. PMID: 14671426.
Prostatitis (acute): antimicrobial prescribing guideline. NICE guideline 2018. https://www.nice.org.uk/guidance/ng110
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