これまでインフルエンザワクチンは注射タイプの不活化ワクチンだけでしたが、2024年シーズンより点鼻タイプのインフルエンザワクチン(LAIV: Live Attenuated Influenza Vaccine)の使用が可能になりました。注射でないため、痛みがないことから期待が高まっていますが、その有効性や注意点について解説したいと思います。
Contents
概要
- 製品特徴
- 弱毒生ワクチン
- 4価ワクチン(A 1/H1N1、A/H3N2、B/Yamagata系統、B/Victoria系統)
- 局所免疫(IgA)と全身免疫を誘導
- 対象
- 日本では2歳から19歳未満が対象
- 妊婦、免疫不全、喘息、卵・ゼラチンのアレルギーがある人は対象外
- (2024年11月現在)任意接種で、原則全額自己負担(多くの医療機関では8,000-9,000円くらい)
- 日本小児科学会のインフルエンザワクチンの推奨
- 2歳〜19歳未満に対して、不活化インフルエンザHAワクチンまたはLAIVのいずれかを同等に推奨
- 喘息患者、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化ワクチンを推奨
- 2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギー患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者には不活化わくちんのみを推奨
- 海外での使用状況
- LAIVは、米国では2003年、欧州では2011年に認可されています。
有効性
- 国内データ
- 国内におけるLAIVと不活化ワクチンとの直接比較試験はなし。
- 2016/17シーズンの無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験(2歳〜19歳未満)
- 全株に対するプラセボと比較した相対リスク減少率(Vaccine effectiveness):28.8%
- インフルエンザ全分離株におけるインフルエンザ発症率は、LAIV25.5%、プラセボ35.9%
- A/H3N2に対するプラセボと比較した相対リスク減少率:28.0%
- A/H1N1、B型株に対する有効性は未確認(本試験では83%がA/H3N2株であったため)
- 全株に対するプラセボと比較した相対リスク減少率(Vaccine effectiveness):28.8%
- 海外データ
- 複数の市販後調査で、LAIVと不活化ワクチンの間にA/H3N2に対する有効性の明確な差はなし
- 2010/11〜2016/17シーズンのメタ分析(2歳〜17歳)
- 全株に対する有効性(Vaccine Effectiveness):45%(95%CI: 32-56%)
- A/H1N1pdm09に対する有効性:25%(95%CI: 6-40%)
安全性
- 主な副反応
- 10%以上:鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔咽頭痛
- 1〜10%未満:鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下・疲労・無力症、筋肉痛、インフルエンザ
- 1%未満:発疹、鼻出血、胃腸炎、中耳炎 頻度不明:顔面浮腫、蕁麻疹、ミトコンドリア脳筋症の症状悪化
接種方法と注意事項
- 接種適応年齢と回数
- 適応年齢:2歳〜19歳未満
- 接種回数:各シーズン0.2mL(左右鼻腔に各0.1mL)を1回
- 接種不適当者
- 発熱者、重篤な急性疾患患者
- LAIVの成分でアナフィラキシーの既往がある者
- 免疫機能異常者
- 免疫抑制治療中の者
- 妊婦
- 注意事項
- 同時接種・接種間隔:他のワクチンとの同時接種可能。他の生ワクチンとの接種間隔に関する明確な規定なし。
- ゼラチン:ゼラチンでアナフィラキシーの既往がある場合は不活化ワクチンを推奨。
- 卵アレルギー:重症度に関わらず特別な安全対策不要(米国ガイドライン)。
- 喘息:重度の喘息や喘鳴のある者は注意が必要。2〜4歳の喘息・喘鳴既往児には推奨されない(米国ガイドライン)。
- 水平伝播:接種後1〜2週間は重度免疫不全者との接触を可能な限り避ける。
- 授乳婦・妊婦:妊婦は接種不適当。授乳婦は接種後1〜2週間は乳児との接触を可能な限り控える。
- 抗インフルエンザウイルス薬:併用でLAIVの効果が減弱する可能性あり。
- サリチル酸系医薬品等:ライ症候群やインフルエンザ脳炎・脳症の重症化との関連性に注意。
- 頭蓋顔面奇形:形成手術を受けていない小児に対する安全性データ不足。
基本的に小児が対象ですので、個人的には泣き叫んだりする未就学児に適切に鼻腔内に噴霧できるか心配です。
*フルミスト点鼻液の使用方法(添付文書より)
結論
LAIVは、特に小児における痛みのない接種オプションとして期待されます。しかし、生ワクチンであることに関連する特有の注意点があります。接種後に鼻汁などの風症状が出ることもあり、周囲に妊婦や免疫不全などの人がいる場合も注意が必要です、また接種後インフルエンザ抗原が陽性になることもあります。個々の患者の状況に応じて適切に使用することが重要です。
何よりメリットは痛みがないことですね。ただし自費となりますので、金銭的に支払いが問題がなく、接種適応があれば一つのオプションになりそうですね。
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方. 2024.
第一三共株式会社. フルミスト点鼻液 添付文書. 2023.
Centers for Disease Control and Prevention. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2023–24 Influenza Season. MMWR 2023; 72.
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