2023年に発表された必読!の感染症分野の論文(@ESCMID Global 2024)

ジャーナルクラブ

以前、米国感染症学会が発刊する雑誌における注目の論文(https://infectioninsights.blog/idsa2023journal/)をご紹介しましたが、今回は2024年バルセロナで開催された欧州臨床微生物感染症学会(ESCMID Global 2024)の中のセッションで、Year in Infectious Diseasesを紹介したいと思います。

これはこの1年間で発表された感染症分野のインパクトのある論文をプレゼンターが選んで紹介してくれるものです。概略だけでも把握していると今のトレンドについていけそうです。抄読会のネタに困ったらこの中からピックアップするのも良いかもしれません。

全部で21個とそれなりの数があります・・・タイトルと概要を記載しますのでざっと目を通していただき興味がある論文があれば元文献にあたっていただければと思います。

21個をざっくりと分類すると下記のようになります(数字は論文の番号です)。日本でも今年から60歳以上を対象に導入されたRSVワクチンは注目ですね。

  • 感染管理:1
  • RSVワクチン:2、3
  • インフルエンザウイルスワクチン:4、5
  • HPVワクチン:6、7
  • ドキシサイクリンによる曝露後予防(PEP):8、9
  • 血液媒介ウイルス:10
  • クリプトコックス髄膜炎:11、18
  • HIV:14、15
  • D型肝炎ウイルス:13
  • 耐性結核:12
  • COVID-19:16、17
  • 新規抗菌薬:19、20、21

Contents

Decolonization in nursing homes to prevent infection and hospitalization.

N Engl J Med. 2023 Nov 9;389(19):1766-1777. PMID: 37815935.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37815935/

ナーシングホームにおけるユニバーサル除菌は感染症による病院転院を減らすのか?

ユニバーサル除菌(入院時にクロルヘキシジシン入浴と鼻腔ポピドンヨードによる除菌をはじめの5日間1日2回その後隔週で1日2回)vs通常の入浴ケアによる比較

ユニバーサル除菌により感染症による転院の絶対リスク16.6%減少、全ての理由による転院の絶対リスクは14.6%減少

ユニバーサル除菌は通常ケアに比べて病院への転院リスクを低下させた

Bivalent prefusion F vaccine in pregnancy to prevent RSV illness in infants.

N Engl J Med. 2023 Apr 20;388(16):1451-1464. PMID: 37018474.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37018474/

妊婦に対するRSVワクチンにより児の下気道感染を減らすのか?

妊娠24-36週の女性を対象に二価RSVワクチンもしくはプラセボを単回筋注

生後90日以内の重症下気道感染に対するワクチンの有効率は81.8%、生後90日以内のRSV関連の下気道感染に対するワクチンの有効率は57.1%

妊娠中のRSVワクチンは、乳児におけるRSV関連の重度下気道感染に対して効果的であり、安全性の問題は認めなかった。

Efficacy and safety of respiratory syncytial virus prefusion F protein vaccine (RSVPreF3 OA) in older adults over 2 RSV seasons.

Clin Infect Dis. 2024 Jan 22:ciae010. PMID: 38253338.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38253338/

60歳以上においてRSVワクチン2回接種における有効性と安全性は?

60歳以上で、RSV単回投与、RSV2回接種(初回から1年後の追加接種)、プラセボ群で有効性と安全性を比較

2回接種にてRSV関連下気道感染に対する有効性は67.1%(1回のみ67.2%)、重症のRSV関連下気道感染に対する有効性は78.8%

2つのシーズンで接種することにより2つのシーズンで有効であったが、追加の有効性は認めなかった。

The end of B/Yamagata influenza transmission-transitioning from quadrivalent vaccine.

N Engl J Med. 2024 Apr 11;390(14):1256-1258. PMID: 38416423.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38416423/

インフルエンザのB/Yamagata型が減少し、今後インフルエンザワクチンは4価から3価ワクチンに移行する可能性が高い。

Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2024-2025 Northern Hemisphere influenza season.

Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2024-2025 northern hemisphere influenza season
Publications of the World Health Organization

WHOは毎年2月と9月の会議にて、インフルエンザワクチンに含めるウイルス株の推奨を行っている。2024-2025年シーズンの北半球における推奨株は、A型インフルエンザ(H1N1pdm09)、A型インフルエンザ(H3N2)、B型インフルエンザ(ビクトリア系統)となっている。

Ten-year follow-up of 9-valent human papillomavirus vaccine: immunogenicity, effectiveness, and safety.

Pediatrics. 2023 Oct 1;152(4):e2022060993. PMID: 37667847.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37667847/

9価HPVワクチン接種を受けた9〜15歳の男女で3回接種後10年間に渡り、持続的な免疫原性と有効性を示した。

Immunogenicity of 2 or 3 doses of 9vHPV vaccine in U.S. female individuals 15 to 26 years of ages.

NEJM Evid. 2024 Feb;3(2):EVIDoa2300194. PMID: 38320488.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38320488/

15~26歳における9価HPVワクチン2回接種と3回接種の効果の比較(途中経過)

2回接種群と3回接種群を比較した単盲検ランダム化非劣性試験

接種後1ヶ月後で2回接種は3回接種と同様の反応を示した。

Post-exposure doxycycline to prevent bacterial sexually transmitted infections.

N Engl J Med. 2023 Apr 6;388(14):1296-1306. PMID: 37018493

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37018493/

性交渉後のドキシサイクリン投与による性感染症の予防効果

HIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)を受けているMSMおよびトランスジェンダー女性とHIV感染者を対象に、コンドームを使用しない性行為後72時間以内にドキシサイクリン200mgもしくは使用しない群でSTI発生率を調査

ドキシサイクリン曝露後予防(PEP)にて、淋菌感染症、クラミジア感染症、梅毒の発生率は3分の2減少した。

Doxycycline prophylaxis to prevent sexually transmitted infections in Women.

N Engl J Med. 2023 Dec 21;389(25):2331-2340. PMID: 38118022

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38118022/

シスジェンンダーを対象として性交渉後のドキシサイクリンの曝露後予防投与(PEP)は有効か

HIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)を受けている18~30歳のケニア人女性を対象に、コンドームを使用しない性行為後72時間以内にドキシサイクリン200mgもしくは使用しない群でSTI発生率を調査

新規STI発症に有意差はなし。ドキシサイクリンによる重大な副作用はなし。淋菌は全てドキシサイクリン耐性だった。毛髪サンプルの検査でドキシサイクリンが検出されたのは29%

シスジェンダー女性においてドキシサイクリンのPEPによるSTIの発生率は有意に下がらなかった。一方でドキシサイクリン投与群のPEPの使用率は低かった。

Blood-borne virus testing in emergency departments-a systematic review of seroprevalence, feasibility, acceptability and linkage to care.

HIV Med. 2023 Jan;24(1):6-26. PMID: 35702813.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35702813/

救急外来での血液媒介ウイルスの検査は陽性者の発見とケアにつながるか

2019年6月までに報告された救急外来での血液媒介ウイルス検査に関する論文を調査。

HCV有病率1.5-17%、HBV0.7-1.6%、HIV0.8-13%であった。ケアにつながったのは21-100%

救急外来での血液媒介ウイルス感染症をチェックするのは実現可能で現場で受け入れられる可能性があるが、それを適切なケアにつなげるためにはさらなる工夫が必要である。

Early antiretroviral therapy not associated with higher cryptococcal meningitis mortality in people with human immunodeficiency virus in high-income countries: an international collaborative cohort study.

Clin Infect Dis. 2023 Jul 5;77(1):64-73.PMID: 36883578.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36883578/

高所得国におけるHIV患者のクリプトコックス髄膜炎に対する早期抗ウイルス薬(ART)投与開始の影響は?

1994-2012年までに欧州や北米でクリプトコックス髄膜炎と診断されたART未導入の患者

早期ART群と遅延ART群における死亡における調整後ハザード比は1.40(95%信頼区間:0.66-2.95)

高所得国におけるクリプトコックス髄膜炎において早期ART導入が死亡率の増加と関連するということは明確には示されなかった。

The Safety and Tolerability of Linezolid in Novel Short-Course Regimens Containing Bedaquiline, Pretomanid, and Linezolid to Treat Rifampicin-Resistant Tuberculosis: An Individual Patient Data Meta-analysis.

Clin Infect Dis. 2024 Mar 20;78(3):730-741. PMID: 37874021

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37874021/

多剤耐性/リファンピシン耐性結核に対する治療レジメン(ベダキリン/プレトマニド/リネゾリド:BPaL)におけるリネゾリドの安全性と忍容性は?

2010年から2021年に実施されたBPaL療法を含むレジメンのデータを含むレビューとメタ解析

リネゾリドを1200mg /日投与されたグループ(35%)では600mg/日のグループ(22%)よりもグレード3-4の有害事象が見られた

リネゾリド600mg/日を含むレジメンでは比較的忍容性があった

A Phase 3, Randomized Trial of Bulevirtide in Chronic Hepatitis D.

N Engl J Med. 2023 Jul 6;389(1):22-32. PMID: 37345876.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37345876/

HBVとHDVの重複感染に対するブレビルチドの効果

ブレピルチド2mg群、10mg群、プラセボ群の3群で48週間後のHDV RNA量、ALT、HBsAg、副作用について評価

48週間のブレビルチド治療後、慢性肝炎D患者においてHDV RNAおよびALTレベルが減少した

Pitavastatin to Prevent Cardiovascular Disease in HIV Infection.

N Engl J Med. 2023 Aug 24;389(8):687-699. PMID: 37486775

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37486775/

HIV患者に対するピタバスタチン投与は心血管リスクを低下させるか?

HIV感染者をピタバスタチン4mg/日とプラセボ群に無作為に割り付け

主要心血管イベントの発生率は、ピタバスタチン群4.81/1000人年、プラセボ群7.32/1000人年。試験は有用性のため早期終了

HIV患者に対するピタバスタチン投与により、中央値5.1年の経過で主要心血管イベントのリスクは低くなった。

A study of the pharmacokinetics, safety, and efficacy of bictegravir/emtricitabine/tenofovir alafenamide in virologically suppressed pregnant women with HIV.

AIDS. 2024 Jan 1;38(1):F1-F9. PMID: 37939141

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37939141/

HIV陽性妊婦における、BIC/FTC/TAF内服の薬物動体、安全性、有効性は?

妊婦を対象とした第1b相試験。2nd、3rdトリメスターから産後16週までBIC/FTC/TAF を内服。

妊娠中の濃度時間曲線下面積は産後に比べると低かったが、平均トラフ濃度は有効なレベルで維持され、薬物動態・安全性、ウイルス抑制効果を考慮すると、投与量調整なしの1日1回内服で妊娠中も問題ないことが示唆された

Oral Simnotrelvir for Adult Patients with Mild-to-Moderate COVID-19.

N Engl J Med. 2024 Jan 18;390(3):230-241. PMID: 38231624.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38231624/

 COVID-19に対するシムノトレビルの効果について

中国の軽症から中等症のCOVID-19患者を対象にシムノトレビル/リトナビル群とプラセボ群で1日2回5日間の投与。症状の消失、安全性、ウイルス量について評価

シムノトレビル群の方が症状改善までの時間が有意に短かった(180.1時間vs 216.0時間, p=0.006、中央値で35.8時間短縮)。ウイルス量の減少もシムノトレビル群で大きかった。有害事象は軽度から中等度のものであった。

成人の軽症から中等症のCOVID-19に対するシムノトレビル/リトナビル投与は症状までの時間を短縮し、安全性の懸念は見られなかった。

Prevalence and risk factors for persistent symptoms after COVID-19: a systematic review and meta-analysis.

Clin Microbiol Infect. 2024 Mar;30(3):328-335. PMID: 37866679.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37866679/

COVID罹患後症状(Long COVID)の有病率とリスク因子は?

2019年12月から2023年1月までに発表されたデータを用いてLong COVIDの有病率とリスク因子を評価

急性期に重症COVID-19や欧州出身者が特定の症状の有病率が高った。女性、高齢、重症COVID-19、複数の併存疾患、入院期間の延長、BMIが高いがリスク因子だった。

Oral Lipid Nanocrystal Amphotericin B for Cryptococcal Meningitis: A Randomized Clinical Trial.

Clin Infect Dis. 2023 Dec 15;77(12):1659-1667. PMID: 37606364

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37606364/

クリプトコックスに対する新規経口アンムホテリシンB(リポイドナノクリスタル(LNC)アムホテリシンB)の効果

HIV関連クリプトコックス髄膜炎に対する新規経口アンムホテリシンBの安全性と忍容性、ivローディングの有無による有効性。4つのコホートで比較(本文Figure1を参照)

ivアムホテリシンBのローディングの有無に関わらず、抗真菌活性及び生存率は変わらなかった。

新規経口LNCアムホテリシンBはクリプトコックス髄膜炎の治療において、従来のivアムホテリシンBと同様の抗真菌活性をもち、毒性が少ないことが示された。

Oral gepotidacin versus nitrofurantoin in patients with uncomplicated urinary tract infection (EAGLE-2 and EAGLE-3): two randomised, controlled, double-blind, double-dummy, phase 3, non-inferiority trials.

Lancet. 2024 Feb 24;403(10428):741-755. PMID: 38342126.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38342126/

単純性尿路感染症に対する経口ゲポチダシンの有用性について

成人女性の単純性尿路感染症に関する2つの第3相RCT(EAGLE2とEAGLE3)。ゲポチダシン(1日2回5日間)群とニホロフラントイン(日本にはないが主に欧州にてUTIに対して使用される抗菌薬)(1日2回5日間)群に分け、治療成功可否(臨床的、美生物学的)と安全性について評価

EAGLE2:治療成功はゲポチダシン50.6%vsニトロフラントイン47.0%

EAGLE3:治療成功はゲポチダシン58.5%vsニトロフラントイン43.6%

両試験でゲポチダシンはニトロフラントインに非劣性で、ゲボチダシンで有害事象は下痢などの軽度から中等度のもののみ。

ゲポチダシンは効果、安全性、忍容性などから有用な抗菌薬となりうる

Efficacy and safety of sulbactam-durlobactam versus colistin for the treatment of patients with serious infections caused by Acinetobacter baumannii-calcoaceticus complex: a multicentre, randomised, active-controlled, phase 3, non-inferiority clinical trial (ATTACK).

Lancet Infect Dis. 2023 Sep;23(9):1072-1084. PMID: 37182534.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37182534/

カルバペネム耐性アシネトバクター(CRAB)に対するスルバクタム/ダルロバクタムの効果について

第3相RCT試験。CRABによる医療関連肺炎/人工呼吸器肺炎/血流感染症の成人患者を対象に、IPM/CS+スルバクタム/ダルロバクタム(D)群とIPM/CS+コリスチン(C)群で28日後全死亡、安全性について評価

28日後全死亡率:D群19% vs C群32%、腎障害発生率:D群13% vs C群38%, p<0.001、治療関連の有害事象による治療中止:D群11% vs C群16%

CRABによる重症感染症に対するスルバクタム/ダルロバクタム投与は、28日後全死亡に関してコリスチン併用群と非劣性であり、コリスチン群よりも腎毒性が低かった。

A novel antibiotic class targeting the lipopolysaccharide transporter.

Nature. 2024 Jan;625(7995):566-571. PMID: 38172634

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38172634/

CRABに対して、リポポリサッカライドトランスポーターを標的とした新規抗菌薬が、既存の耐性菌に対してin vitroおよびマウスモデルにて有効性を示し新しい治療薬の候補となることが示された。

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