SARS-CoV-2のEG.5について

ジャーナルクラブ

JAMA Networkから現在世界的に増加している新型コロナウイルスのEG.5に関する情報です。

What to know about EG.5, the latest SARS-CoV-2 “Variant of Interest” JAMA. Published online August 18, 2023. doi:10.1001/jama.2023.16498

EG.5変異株に関するポイントは以下の4つです。

  • WHOはEG.5を”Variant of Interest: 注目すべき変異株”とした。
  • EG.5はXBB系統より高い実効再生産数。
  • スパイクタンパクにF456L変異を持っており、(実験室内データで)XBB1.5に対する中和 抗体から回避し得る。
  • 重症化しやすいというデータはない。
  • 専門家は新しいワクチン(一価のXBB1.5ワクチン)はEG.5に対しても有効性が高いと考えている。

現時点で過度に恐れる必要はありませんが、重症化リスクが高い人は新しいワクチンの追加接種を進めていきたいですね。

以下、論文の内容の意訳になります。

—-

オミクロン系統のEG.5は、2023年8月9日の初期リスク評価にてここ数週間の世界的な流行を反映して、WHOは現在のXBB1.16とXBB.1.5に加えて”Variant of Interest“にリストアップされた。

この報告は米国で入院患者数と死亡者数が増加し、今秋に使用可能とされる最新のワクチンへの期待が高まる中発表された。EG.5が感染者数の急増に関与している可能性があると指摘している。しかし現時点では重症化を引き起こしやすいという証拠はない。

増殖の利点

この変異株は、今年の2月の初めに報告され、WHOのリスク評価ではmoderate growth advantageと判定されている。今夏の世界的な流行で、EG.5は6/25の週では約8%を占めていたが、7/23の週では約17%と倍増していた。7/23の週で最も多かったのはXBB.1.16であり約1/4を占めていた。XBB.1.5は減少傾向にあった。

EG.5の中でも大部分を占めるEG.5.1は、XBB variantよりも高い実効再生産数(Rt: 1人の感染者が次い平均で何人にうつすか)を示すことがbioRxivに投稿された研究で明らかになった。このことは、EG.5とその亜型が「近い将来」優勢になる可能性を示唆していると東京大学医科学研究所の佐藤佳氏はJAMAに寄稿している。

EG.5はすでに世界のいくつかの地域で最も増加している亜種である。CDCは8月上旬までにEG.5系統がVBB1.16とVBB1.5を上回っている可能性が高い。

抗体回避の特性

EG.5はXBB.1.9.2の系統で、オミクロン系統、近々ワクチンがターゲットとする変異株であるXBB1.5と同じスパイクタンパク質を持つ。しかしそれとは異なり、EG.5はスパイクタンパク質のF456L変異を持っており、実験室内の検討ではほとんどのXBB1.5の中和抗体から回避した。入手可能なEG.5 sequenceの88%を占めるEG.5.1亜種はさらにスパイクタンパク質にQ52H変異を有している。

F456L変異は特に重要であると佐藤氏らは述べている。

「特にF456Lは、XBB.1.5の系統で何度も見つかっており、ワクチン接種を受けた人や感染した人の抗体感受性を僅かに低下させる可能性がある」とドリア・ローズ氏(NIHワクチンリサーチセンター)は述べている。

現在のデータに基づき、WHOはEG.5の抗体回避リスクを中程度と分類した。しかしながらこの免疫回避の結果は、野生型ウイルスではなく、実験室内で用いられるウイルスでの結果であり、さらなる検討が必要と述べている。

COVID-19の流行に関与するかどうは不明

CDCのデータによれば、米国でのCOVID-19検査陽性率、排水中のレベル、救急外来受診率、入院率、死亡率の全てが上昇している。しかし、EG.5がどの程度現在の流行に関与しているのかは不明である。佐藤氏によれば、予防接種や過去の感染による免疫力の低下が一因となっている可能性があると。

また米国での入院患者数と死亡者数は、昨年の今頃と比べると大幅に減少していることも重要な点である。エモリー大学感染症科教授で米国感染症学会会長のカルロス・デル・リオ氏は、XBBの亜種が主な原因となっている現在の入院患者数の増加についてはやや懸念していると述べている。しかし、ワクチンの追加接種によって感染したとしても入院となる可能性はとても低いと寄稿している。

重症化を示す兆候はない

これまでのところEG.5が重症化を引き起こしたと言う報告はなく、WHOはEG.5の重症化リスクは低いとしている。

EG.5の有病率が上昇している国では、感染者数と入院数が増加しているが、現時点ではEG.5が直接重症化を上げる証拠はないと報告している

ドリア・ローズ氏は、EG.5が現在のCOVID-19患者数の増加や入院患者の増加に関連しているが、それは重症化ではなく高い感染性によるものと説明している。

しかしWHOのリスク評価には注意すべき点がある。それは世界的に新規の入院や集中治療室への入室の報告自体が大幅に減少しているため、重症例に関するデータの解釈には慎重を期した方が良いであろう。またこの変異株が臨床結果に及ぼす影響を調査するには、さらに多くの研究が必要である。

ワクチン追加接種による楽観的な見解

新しくアップデートされたCOVID-19ワクチンは、FDAで認可され、CDCから承認を受ければ9月中旬からから下旬には米国で発売される予定である。問題点は、EG.5に対しても効果があるかどうかである。

デル・リオ氏もドリア・ローズ氏も、結局のところXBBの分派であり(XBB.1.9.2.5としても知られる)、一価のXBB1.5ワクチンのブースタはEG.5に対してもある程度の予防効果が期待できると述べている。

2023年秋のワクチンのベースとなっているXBB1.5スパイクタンパク質からの変化はほとんどないため、新しいワクチンは、野生株やBA.5系統をベースとした昨年のワクチンよりもよく効くと予想されるとドリア・ローズ氏は述べている。

デューク大学メディカルセンターのデビッド・C・モンテフィオーリ氏も、今秋のワクチンはEG.5に対して引き続き高い効果が期待される、と言っている。さらにF456L変異はワクチン回避に対して大きな影響があるとは考えにくいと付け加えた。

モンテフィオーリらのグループは、新しいワクチンでブーストされた人々の血清サンプルを調査しており、その結果は近々報告されるであろう。

今年5月の時点で、米国では17%の人しか2価ワクチンの接種を受けていない。追加接種をスキップしした人々に対して、デル・リオ氏は新しいワクチンが入手可能となるまで1ヶ月待つことを勧めると述べている。「COVID-19はまだ終わっていない。できるだけ早く追加接種をしてください」と彼は残している。

What to know about EG.5, the latest SARS-CoV-2 “Variant of Interest”.

JAMA Network Published online August 18, 2023. doi:10.1001/jama.2023.16498

コメント

タイトルとURLをコピーしました