以前、腸球菌の持続菌血症に関する文献をご紹介しました.。(https://infectioninsights.blog/persistent_enterococcus/)
そこでも触れましたが、腸球菌に対する治療は、薬剤感受性試験の結果に従ってアンピシリンもしくはバンコマイシンを使用することが一般的かなと思います。またEnterococcus faeciumはペニシリン耐性が多く、E. casseliflavusやE. galllinarumはバンコマイシン自然耐性でしたね。
さてバンコマイシンが使用できない、もしくは血中濃度がうまく上がらず臨床経過がよくないといった場合には他剤を使うことになるかと思いますが、その際にダブトマイシンは使用できるのでしょうか?
Uptodate(Last update Aug 25, 2022)によると、
ダプトマイシンはバンコマイシン耐性E. faecalisまたはE. faeciumによる皮膚軟部組織感染症に有効であるというデータもあるが株数が少なくFDAの承認を得るまでには至っていない。
モンテカルロシュミレーションでは、MICが4μg/mLの腸球菌に対してダプトマイシン6mg/kgの投与では目標のfMIC/AUCを超えるのは1.5~5.5%に過ぎないとしている。
またバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)菌血症では、標準用量(6mg/kg)や中用量(7-9mg/kg)よりも高用量の方が、死亡率が低いことが報告されている.。
Effect of daptomycin dose on the outcome of vancomycin-resistant, daptomycin-susceptible Enterococcus faecium bacteremia. Clin Infect Dis. 2017 Apr 15;64(8):1026-1034. PMID: 28329222.
ただし、高用量の際には特に副作用のクレアチニンキナーゼ(CK)の上昇には注意が必要で、ミオパチーの症状があり基準値上限の5倍以上のCK上昇、もしくは無症状で基準値上限の10倍以上のCK上昇を認めた場合には中止すべきであると述べられています。
CLSI
CLSI M100 ED34: 2024のドキュメント(https://infectioninsights.blog/check_clsi/)では、腸球菌に対するダプトマイシンのブレイクポイントは下記のように記されています。
S | SDD | I | R | 投与量 | |
E. faeciumのみ | ≦ 4 | ≧ 8 | 8-12 mg/kg | ||
E. faecium以外の腸球菌 | ≦ 2 | 4 | ≧ 8 | 4-6 mg/kg |
E. faeciumではSは設定されていません。その代わりSDDが設定されています。SDDとは、”Susceptible Dose Dependent”、日本語では”用量依存的感性”と訳されます。これは、感受性が抗菌薬の投与方法や投与量に依存することを意味しています。
ですので、E.faecium感染症をダプトマイシンにて治療する際には、DAPのMICが4μg/mL以下であれば、8-12mg/kgの高用量で治療効果が期待できるということです。
E. faeciumの脚注には、The breakpoint for SDD is intended for serious infections due to E. faecium. Consultation with an infectious diseases specialist is recommended(SDDのブレイクポイントは、E. faeciumによる重症感染症を対象としており、感染症専門医にご相談ください).と記載されています。
E. faecium以外のEnterococcusであれば、MICが2以下であれば、標準的な投与量(4-6mg/kg)で治療ができる可能性があります。
EUCAST
EUCAST v14.0では、ダプトマイシンのブレイクポイントは設定されていません。
正確にいうと”IE”と表示されています。IEとは、” Insufficient evidence that the organism or group is a good target for therapy with agent.”という意味で、データ不十分なのでブレイクポイントが設定されていません。
まとめ(私見)
腸球菌に対してダブトマイシンを使用する際には
私が所属する施設では、腸球菌の薬剤感受性にダプトマシシンは入っていないので追加で測定してもらうようにしています。
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