ここ半年で、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の症例が急増しているのをご存知ですか?今回は、この重要な感染症のトレンドについて、2024年6月の国立感染症研究所の報告(https://www.niid.go.jp/niid/ja/tsls-m/2655-cepr/12718-stss-2024-06.html)をもとにわかりやすく解説していきます。
STSSの急増!
2024年の第1週から第24週(1月1日~6月16日)までに、なんと1,060例ものSTSS症例が報告されました。これは感染症発生動向調査が始まって以来、最多の届出数とのこと!
そのうち、A群β溶血性レンサ球菌(GAS)によるものが656例(62%)を占めています。例年30~50%程度だったことを考えると、かなりの増加ですね。
誰が危ない?
- 30代以上の方々が特に要注意!
- 60代と70代が最も多く、それぞれ20%と21%を占めています。
- 男性がやや多い傾向(57%)
UK系統株の台頭
最近のSTSS症例増加の背景には、M1UK系統株の存在があります。この新たな脅威について、M型の基本的な情報も含めて詳しく見ていきましょう。
M型とは、A群溶血性レンサ球菌(GAS)の表面に存在するM蛋白の抗原性の違いによる分類です。 M蛋白は、GASの主要な病原因子の一つで、宿主の免疫系からの回避に重要な役割を果たしています。 現在、200以上のM型が同定されています。 M型の同定には、M蛋白をコードする遺伝子emm遺伝子の塩基配列を決定する方法(emm型別)が広く用いられています。
日本ではこれまで主に、emm1(M1型)、emm12(M12型)、emm4(M4型)が見られています。
M1UK株系統とは、これらのM型の中でも特に注目されている新たな亜型です。通常のM1型株と比べて、病原性(通常のM1型の約9倍も発赤毒素を産生)と伝播性が高いとされています。2010年代に英国で最初に確認された、M1型(emm1)の亜型です。2023年夏以降、日本国内でも検出されるようになりました。
今回、GASによるSTSS症例から分離されたM1型株の87.8%が、なんとM1UK系統株だったんです!
地域差あり
東京都(93株, 24.7%)、神奈川県(39株, 10.3%)、大阪府(28株, 7.4%)、千葉県(27株, 7.2%)、埼玉県(26株, 6.9%)の順に多く報告されています。特に関東地方からの届出が目立ちますね。
感染経路は?
- 創傷感染(44%)
- 感染経路不明(35%)
- 飛沫感染(9%)
- 接触感染(4%)
創傷感染が最も多いですが、感染経路不明も多いので要注意です!
GAS咽頭炎も増加中
GAS咽頭炎の小児科定点当たり報告数も、過去6年間の同時期と比較して高い値が続いています。2024年5月20-26日の週にピーク(定点当たり報告数5.03)を記録しました。
海外の状況は?
欧米でも2022年末から2023年初頭にかけて、小児を中心にiGAS感染症(侵襲性A群β溶血性レンサ球菌感染症)の増加が報告されています。ただし、その後の状況は国によってさまざま。引き続き国際的な動向にも注目が必要そうです。
英国🇬🇧:2022年末から2023年初頭にかけて、特に10歳以下の小児でiGAS感染症が増加。 同時期にM1UK系統株の報告数も増加。 2023年2月以降は平年並みに落ち着いている。
米国🇺🇸:2022年12月に欧州同様、小児でのiGAS感染症が増加。 2023年の流行シーズン(1~4月)も高いレベルで推移。 その後、大きな流行の波は見られていない。 GASによるSTSSの報告数は、新型コロナウイルス感染症流行以前と比較するとやや多いものの、大きな増加はない。
まとめ
STSSの急増、特にGASによる症例の増加は、私たち医療従事者にとって重要な課題です。UK系統株の台頭も気になるところ。適切な診断、治療、感染予防に努めながら、今後の動向をしっかりと見守っていく必要がありそうです。
国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について (2024年6月時点) https://niid.go.jp/niid/ja/tsls-m/2655-cepr/12718-stss-2024-06.html
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