2024年 4月27日から4月30日まで バルセロナで行われたESCMID Global(https://www.eccmid.org/)に参加してきました。
日本のほとんどの学会は、登録した演題はすべて採択されますが、この学会の演題の採択率は約70%とのことで、私自身もバルセロナに行きたい一心で、2演題出しましたが通ったのは1演題だけでした。
この学会は、欧州の感染症に関する一番大きな学会で、米国の臨床系のIDWeekと微生物系のASM microbeと並んで世界的な感染症に関する学会の一つになります。これまではECCMID(European Congress of Clinical Microbiology and Infectious Diseases)と呼ばれていましたが、今回からESCMID globalに名前が変わっていました。世界中から参加していて、日本からは約150名の方が参加していました。
今回はその中でClinical Grand Roundのセッションで紹介されていた症例についてご紹介したいと思います(タイトルはプレゼンターがつけたものをそのままです)。
Case: 45歳男性
主訴:6ヶ月続く右大腿部痛、増大する膝の腫瘤(ここ1ヶ月で増大)、意図しない体重減少(13-18kg )
病歴:2週間前から、痛みのため右足に体重をかけることができなくなった。最近市中肺炎(原因菌不明)に罹患した。外傷歴なし、悪寒戦慄なし。
既往歴:1型糖尿病(インスリン使用)、双極性障害
社会歴:米国北東部で、母と妻、2人の子供と生活。1匹の猫を飼っている。過去に犬と爬虫類を飼っていた。彼の家族は鶏と豚を飼っている。彼は豚に乗るのが好きだった。
身体所見:発熱なし、元気そう、呼吸循環問題なし。右大腿部遠位端(膝上)に大きく、発赤圧痛のある腫瘤あり。疼痛のため可動域制限あり。
WBC 2万/uL(好中球数1.51万/uL)、Ca 12.8 (基準:8.5-10.5) mg/dL、PTH 18 (10-60)pg/mL、PTHrp<0.4、HbA1C 12.5%、その他肝機能など生化学は正常
造影CTでは大腿後内側部に造影される腫瘤で隣接する骨に浸潤している
腫瘤の生検:凍結切片にてhigh-grade sarcoma→最終病理診断:中心に微小膿瘍を伴う肉芽腫性の炎症
原因は?
コントロール不良な糖尿病患者が大腿部に肉芽腫を形成しているというプレゼンテーション。豚に乗ったり、多くの家畜との接触があるというのが気になりますね・・・
肉芽腫性病変をきたす微生物の鑑別診断として挙げられていたのは
- 細菌性:Tularemia、猫引っ掻き病(バルトネラ)、Whipple病
- 抗酸菌:結核、非結核性抗酸菌、ハンセン病
- 真菌:カンジダ、クリプトコックス、コクシジオイデス、ヒストプラズマ、ブラストミセス、アスペルギルス
- 寄生虫:トキソプラズマ、リーシュマニア、住血吸虫
追加検査
血液培養陰性、血液培養抗酸菌ボトル陰性、Tスポット陰性、クリプトコッカス抗原陰性、HIV抗原抗体陰性、βDグルカン 109pg/mL(<60)
関節液:細胞数27,000(好中球70%、リンパ球16%)
生検:好気・嫌気培養陰性、真菌培養 少量の酵母、抗酸菌培養陰性
その他:ヒストプラズマ尿中抗原陰性、ヒストプラズマ抗体陰性、ブラストミセス尿中抗原陰性
診断そして、治療は?
培養結果を待ちつつ、アンホテリシンBの投与
生検検体及び関節液からCandida albicans分離
膿瘍のデブリドマン、大腿骨遠位端掻爬術および膝関節切開術実施。
複数の手術検体からもC. albicans
病理検体:中心に微小膿瘍を伴う肉芽腫病変、偽性菌糸を伴う酵母
最終診断:Candida albicansによる肉芽腫
まさかのカンジダでしたね。
以下、カンジダによる肉芽腫病変に関してお勉強です。
-カンジダによる肉芽腫形成はまれだが、過去に消化管、肝臓、腎臓に病変を認めた報告がなされている。多くの例で腫瘍と間違われ生検で診断されている。
-ほとんどの症例は、血行性の播種によるもので、外傷歴やカンジダ血症がない例ではまれ(今回の症例は豚との接触による皮膚からの直達を疑っているとのことでした)。
-コントロール不良の糖尿病はリスク因子。
カンジダ骨髄炎・化膿性関節炎の治療は、デブリドマンと6-12ヶ月のフルコナゾールの治療。
Malignant tumor-like gastric lesion due to Candida albicans in a diabetic patient treated with cyclosporin: a case report and review of the literature. Clin Exp Med. 2012 Sep;12(3):201-5. PMID: 21904834.
Histopathologic diagnosis. Am J Surg Pathol. 1988 Sep;12(9):716-20. PMID: 3414894.
Localized candidiasis in kidney presented as a mass mimicking renal cell carcinoma. Case Rep Infect Dis. 2012;2012:953590. PMID: 22567490
Fungal Osteomyelitis: A Systematic Review of Reported Cases. Microorganisms. 2023 Jul 17;11(7):1828. PMID: 37513000
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