今日は、最近発表された「Ten Clinical Pearls in Microbiology: How Effective Collaboration Optimizes Patient Care (Am J Med 2024)」という論文について取り上げたいと思います。これら10個のクリニカルパールは日々の診療において適切な患者ケアをするために貴重な情報となります。
Contents
- 1 臨床医は検査前エラーの防止に重要な役割を果たす Clinicians have a key role in preventing pre-analytical laboratory error
- 2 病原体の検出には複数の要因が影響する Multiple factors impact pathogen recovery in the laboratory
- 3 培養検査が陽性であることは、必ずしも感染を意味するわけではない A positive microbiological culture result does not neccessarily diagnose infection
- 4 血液培養結果の解釈には臨床的文脈が必要 Clinical context is required to properly interpret blood culture results
- 5 微生物学的結果は抗菌薬適正使用と抗菌薬中止の両方に有用 Microbiological results are helpful for both narrowing and stoping antimicrobial therapy
- 6 in vitro の抗菌薬感受性試験は必ずしも臨床的に相関しない in vitro antibiotic susceptibility resting does not always correlate clinically
- 7 薬剤感受性試験の報告は目的を持って行われる Reporting of antimicrobial susceptibility testing is purposeful and guided by laboratory practice standards
- 8 アンチバイオグラムは経験的治療の選択と耐性傾向のモニタリングに有用 Antibiograms are helpful in selecting empiric therapies and monitoring for trends in antimicrobial resistance
- 9 病原微生物の特徴は感染症の原因と合併症の探索に役立つ Characteristcs of pathogens can guide investigations into the cause and complications of infectious syndromes
- 10 分子生物学的検査は適切な臨床的文脈で感度と特異度の向上に活用できる Molecular microbiology can be leveraged for its increased sensitivity and specificity in the appropriate clinical context
臨床医は検査前エラーの防止に重要な役割を果たす Clinicians have a key role in preventing pre-analytical laboratory error
近年Diagnostic stewardshipという言葉が広まっていますが、適切な感染症診療を行うためには適切な検査が必要です。検査のエラーに関しては、検査におけるエラーの約75%は検査前エラーが占めています。また驚くことに、検体の誤ラベリングの発生率は最大5%にも達するとの報告もあります。つまり、適切な検体採取と取扱いは、正確な結果を得るために不可欠です。例えば
- 嫌気性培養が必要な場合は、検体を適切な容器に入れる
- 結核検査用の検体をホルマリン容器に入れない
- 適切な量の血液を血液培養ボトルに採取する(少ないのも、多いのもダメ!)
などです。
病原体の検出には複数の要因が影響する Multiple factors impact pathogen recovery in the laboratory
微生物学的検査は感染症診断の重要なツールですが、培養結果のみでは感染を否定できません。検体採取前に抗菌薬が投与されていたり、通常の培地では発育しにくい病原微生物の存在がある場合などがあるからです。血液培養の検出率は臨床状況によっても異なり、例えば:
- 敗血症患者の血液培養の陽性率は約70%
- 蜂窩織炎では血液培養の陽性率は2%程度
- 発熱性好中球減少症では血液培養の陽性率は20%程度
と報告されています。
また淋菌、レジオネラ、リケッチアなどは特殊な培地や培地条件が必要です。
培養検査が陽性であることは、必ずしも感染を意味するわけではない A positive microbiological culture result does not neccessarily diagnose infection
非無菌部位からの検体には常在菌が含まれることがあります。例えば:
- 褥瘡や糖尿病性足潰瘍の表面スワブ
- 副鼻腔炎が疑われる患者の鼻腔スワブ
- カテーテルバッグや気管切開部からの検体
などで分離した微生物に対して本当に抗菌薬治療が必要かは考慮する必要があります。
また臨床経過を加味して判断する必要があります。例えば、細菌性肝膿瘍+Streptococcus anginosusの菌血症の患者に対して、セフトリアキソン+メトロニダゾール投与にて改善している患者において、経皮的ドレナージカテーテルから採取した検体からPseusomonas aeruginosaとコアグラーゼ陰性ブドウ球菌を認めたとしても、カテーテルの定着菌を拾ってるだけでこれらに対する抗菌薬治療は不要です。
またスワブで検体が採取されていることが見受けられますが、スワブは容易に汚染されること、採取検体量が少ないこと、複数の培地への塗布が困難であり、正確な微生物の情報が得られず患者の転帰に悪影響を及ぼす可能性があります。
血液培養結果の解釈には臨床的文脈が必要 Clinical context is required to properly interpret blood culture results
血液培養は、血流感染症の診断に広く用いられる重要な検査です。適切な実施方法で採取すべきです。また発熱だけなく、悪寒戦慄やバイタルサインの変化、WBCの増加など複数の要因を総合的に評価します。
血液培養の結果の解釈は、重要で患者の臨床上と併せて解釈し、その結果のみでは判断しないこと、迷う場合は再検査や追加検査を検討する必要があります。また分離される微生物も参考になります。例えば、
真の感染を示す可能性が高い病原微生物:Staphylococcus aureus, Group B Streptococcus, グラム陰性菌、嫌気性菌、真菌
コンタミネーションの可能性が高い病原微生物:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、viridans streptococcus group、Corynebacterium spp.、Cutibacterium acnes
微生物学的結果は抗菌薬適正使用と抗菌薬中止の両方に有用 Microbiological results are helpful for both narrowing and stoping antimicrobial therapy
感染症診療において、適切な微生物学的診断の重要性は言うまでもありません。抗菌薬投与前に培養検査を行うことで、診断精度が向上し、適切な抗菌薬選択が可能になります。しかし、その重要性は単に耐性菌の予防にとどまらず、患者の転帰改善にも大きく寄与します。
まず、適切な微生物学的検査により、狭域抗菌薬の使用が可能になります。これ耐性菌出現のリスクを低減するだけでなく、特定の状況では患者の死亡率改善にもつながります。例えば、黄色ブドウ球菌菌血症は約25%という高い死亡率を示しますが、適切な抗菌薬選択がその転帰を左右します。
興味深いことに、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対しては、ピペラシリン-タゾバクタムや非第一世代セファロスポリンよりも、抗ブドウ球菌ペニシリンやセファゾリンの方が優れた転帰をもたらします。これは、より広域な抗菌薬が必ずしも良い結果をもたらすわけではないことを示しています。実際、耐性菌ではない感染症に対する不必要な広域抗菌薬の使用は、交絡因子を調整しても高い死亡率と関連していることが報告されています。
さらに、適切な微生物学的診断は、不要で潜在的に有害な抗菌薬療法の中止にもつながります。例えば、急性呼吸器感染症の患者で、呼吸器検体からインフルエンザAウイルスが検出された場合、抗菌薬を中止することができます。同様に、髄膜脳炎の患者で脳脊髄液から単純ヘルペスウイルスが検出された場合も、抗菌薬療法を中止し、適切な抗ウイルス療法に移行できます。
これらの利点を最大限に活かすため、臨床医は以下の点に注意を払う必要があります:
- 抗菌薬投与前の微生物学的検を徹底する。
- 微生物学的診断結果に基づいて抗菌薬療法を適宜見直し、可能な限り狭域化する。
- ウイルス性疾患の可能性を常に考慮し、適切なウイルス検査を実施する。
- 微生物検査室と緊密に連携し、結果の解釈や追加検査の必要性について相談する。
in vitro の抗菌薬感受性試験は必ずしも臨床的に相関しない in vitro antibiotic susceptibility resting does not always correlate clinically
感染症診療において、耐性菌の正確かつ迅速な検出は極めて重要です。臨床微生物検査室では、様々な方法で抗菌薬感受性試験を行っています。結果は主に以下の2つの形式で報告されます:
a) カテゴリー変数:感性(S)、中間(I)、耐性(R)
b) 定量的数値:最小発育阻止濃度(MIC)→微生物の増殖を阻止するのに必要な抗菌薬の最低濃度(mg/LまたはµL/mL)
European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)やClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)などの委員会が、臨床、薬力学、薬物動態学的研究データに基づいてMICのブレイクポイント(解釈基準)を設定しています。これにより、in vitroでの感受性が推定され、臨床医にとって治療成功のの可能性が高い抗菌薬を選択する際の指針となります。しかし、in vitroでの感受性結果が、必ずしも臨床的な成功や失敗を保証するわけではありません。
実際に、「90-60ルール」というものが示されています。これは、感性(S)と判定された場合、90%の確率で臨床的に有効、耐性(R)と判定された場合、60%の確率で臨床的に有効であるというものです。ただし、免疫不全患者や、鑑別診断がつかない敗血症などで抗菌薬の併用療法を行う場合など、生物学的変動性が増加した状況では、in vitroの感受性試験結果と臨床転帰の相関がさらに低下することがあります。
抗菌薬感受性試験の結果は重要ですが、それだけに頼るのではなく、連続的な臨床評価を行い、感受性試験結果と臨床所見を総合的に判断することが重要です。また、患者の免疫状態や感染部位の特性を考慮し、必要に応じて感染症専門医にコンサルテーションを行うことも推奨されます。
薬剤感受性試験の報告は目的を持って行われる Reporting of antimicrobial susceptibility testing is purposeful and guided by laboratory practice standards
感染症診療において、微生物の薬剤感受性パターンを理解することは非常に重要です。特に、内因性耐性の概念を把握することは、経験的抗菌薬療法を最適化する上で大きな助けとなります。
内因性耐性とは、ある微生物が共通して持つ感受性パターン(表)で、抗菌薬曝露や遺伝子の水平伝播とは無関係に存在します。この知識は、臨床医が適切な抗菌薬を選択する際に役立ちます
表. 微生物の内因性耐性
病原微生物 | 内因性耐性 |
グラム陽性菌 | アズトレオナム(βラクタム系薬の一種) |
嫌気性菌 | アミノグリコシド |
腸球菌 | セファロスポリン、ST合剤 |
Stenotrophomonas maltophilia | カルバペネム |
Klebsiella 属 | アンピシリン |
Candida krusei | フルコナゾール |
さらに、患者が投与されている抗菌薬に基づいて、次に感染する可能性のある微生物を予測することも可能です。例えば、カルバペネム系薬投与中の患者に新たなグラム陰性菌菌血症が生じた場合、Stenotrophomonas maltophiliaがカルバペネム系に対して内因性耐性を持つことから、この菌が原因菌である可能性が高いと推測できます。
ここで重要なのは、内因性耐性が既知のものについては、感受性試験が実施されない、あるいは報告されない場合があるということです。多くの医療機関では、選択的または段階的に薬剤感受性試験の報告を行なっています。これはCLSIのガイダンスに基づいており、ある抗菌薬クラス内の一次選択薬に耐性がある場合にのみ、二次選択薬(より広域スペクトラムや高価な薬剤)の感受性を表示するというものです。例えば、腸内細菌目細菌に対して、セフトリアキソンに耐性がある場合にのみセフェピムやカルバペネム系の感受性を報告するといった具合です。
この抗菌薬感受性報告書を活用して抗菌薬使用を最適化することで、臨床医は積極的に抗菌薬適正使用の活動に参加していることになります。
アンチバイオグラムは経験的治療の選択と耐性傾向のモニタリングに有用 Antibiograms are helpful in selecting empiric therapies and monitoring for trends in antimicrobial resistance
アンチバイオグラムとは、医療機関毎に患者から分離された様々な微生物の薬剤感受性データをまとめたものです。これは耐性菌に関する疫学的傾向を監視するための重要なツールとなっています。
最新のアンチバイオグラムは、empiric therapyとして抗菌薬を選択する際に非常に有用で、UpToDateやSanfordガイドよりも、その医療機関に特化した情報を提供してくれます。しかし、一部の臨床医はまだアンチバイオグラムを経験的治療に活用することに慣れていないことも示されています。
アンチバイオグラムの作成は、CLSIのガイドラインに基づいて、毎年各医療機関の検査室で作成されます。ここで重要なのは、30株以上の分離があった微生物の培養結果のみが反映され、通常使用される抗菌薬のみが感受性試験の対象となることです。
アンチバイオグラムの結果は、医療機関間で大きな違いがある可能性があるため、臨床医は自分の所属医療機関の最新のアンチバイオグラムを使用することが重要です。
一方で、アンチバイオグラムの限界を認識することも重要です。感受性の二値的な測定(感受性あり/なし)のみを提供し、定量的情報は含まれません。また抗菌薬の組織への移行性を考慮していません。例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による肺炎で菌血症を合併した患者の場合、ダプトマイシンが感受性ありと報告されても、肺組織への移行性が低いため実際の臨床には反映できません。
病原微生物の特徴は感染症の原因と合併症の探索に役立つ Characteristcs of pathogens can guide investigations into the cause and complications of infectious syndromes
感染症治療を成功させ、再発を防ぐためには、感染症の原因と合併症を理解することが極めて重要です。感染の要因と合併症の調査は、原因微生物が特定されることにより導かれます(表)。
表. 血液培養で検出された病原体とその臨床的意義
微生物 | 臨床的意義 |
Staphylococcus aureus | 感染性心内膜炎 |
Group B Streptococcus | 糖尿病、HIV、肝硬変 |
Streptococcus pnuemoniae | HIV、免疫グロブリン欠乏症との関連 |
Streptococcus mutans | う歯 |
Streptococcus bovis, Clostridium septicum | 消化管腫瘍 |
非結核性抗酸菌 | 細胞性免疫不全 |
Pseudomonas spp. S. aureus, Candida spp. | 中心静脈カテーテル抜去 |
グラム陰性菌 | 消化管、尿路、胆道系由来の感染源 |
微生物が症候性の疾患を引き起こす能力(病原性)は、その微生物の持つ毒性因子と、宿主の防御機構から逃れる能力によって決定されます。
例えば、グラム陰性菌は消化管内の正常細菌叢ですが、宿主の防御機構が正常に機能している場合、無菌部位に移行して感染を引き起こすことはありません。したがって、グラム陰性菌菌血症に遭遇した場合、抗菌薬治療が必要なだけでなく、胆道系、腸管内、尿路系の検査を行い、感染につながったバリアの破綻を評価する必要があります。同様に、無菌部位での他の病原体の同定、例えば侵襲性肺炎球菌感染症は、宿主免疫能低下の疾患(例:HIV感染症など)の検査を行うべきです。
微生物の特性を熟知することは、合併症のスクリーニングにも役立ちます。例えば、黄色ブドウ球菌による菌血症は20〜30%の死亡率に関連しています。黄色ブドウ球菌菌血症患者の最大25%に感染性心内膜炎が認められるため、すべての黄色ブドウ球菌菌血症患者に心エコー検査が推奨されています。
さらに、微生物学的知見は、経験的治療だけでなく、補助的治療の決定にも影響を与えます。例えば、血流感染症の場合、中心静脈カテーテルの抜去か温存かの決定は、検出された病原体にもよります。黄色ブドウ球菌、緑膿菌、カンジダ属はバイオフィルムを形成する性質があるため、これらの病原体が血流から検出された場合は、中心静脈カテーテルの抜去が推奨されます。
分子生物学的検査は適切な臨床的文脈で感度と特異度の向上に活用できる Molecular microbiology can be leveraged for its increased sensitivity and specificity in the appropriate clinical context
分子生物学の進歩は、微生物の検出と同定に関連する感度、特異度、所要時間を大幅に改善しました。以前は専門的な研究室に限られていた核酸増幅検査(細菌やウイルスの特定のDNAまたはRNA配列を検出する)は、現在では一般的に使用できるようになっています。
核酸増幅検査(NAAT)の代表例である、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)やループ介在等温増幅法(LAMP)は、酵素を用いて核酸配列を指数関数的に増幅し、in vitroで迅速に検出する方法です。NAATの迅速性により、クラミジア・トラコマチスや淋菌などの感染症の一次スクリーニング検査として使用されるようになっています。
NAATは優れた感度をもつため、陰性の結果の場合、感染症を高い確率で否定することができます。例えば、マラリアを否定する際に、LAMP検査の結果が従来の厚層塗抹法や薄層塗抹法よりも優れた性能を示すことが示唆されています。
しかし、核酸検査は診断の確定には有用ですが、治癒判定検査としての使用には注意が必要です。分子標的の検出は、急性感染、病原体の定着、あるいは過去の感染からの残存排出によるものである可能性があるため、慎重な臨床的判断が求められます。
例えば:
- 結核菌:適切な抗結核療法後の患者でも、PCRによる喀痰中の結核菌検出が何年も持続することがあり、これは進行中の感染を意味するものではありません。
- Clostridioides difficile:C. difficile下痢症の治療後、臨床的に改善した患者でもPCR毒素アッセイが持続的に陽性となることがあります。
- 健康な成人の糞便PCR:無症候性のC. difficile保菌者(約15%)でも陽性となります。
分子生物学的検査は感染症診断に革命をもたらしましたが、その結果の解釈には臨床的な判断が不可欠です。常に「検査は患者を診るためのツールである」という原則を忘れずに、分子生物学的検査の結果を慎重に解釈し、適切な臨床判断を下すことが重要です。
最後に
微生物学検査は、感染症のサーベイランス、治療、予防において重要やな役割を果たしています。臨床医にとってこれら10の主要な概念を理解し、微生物検査室との連携を行うことによって患者ケアに有益なものとなります。
Lam JC, Bourassa-Blanchette S. Ten Clinical Pearls in Microbiology: How Effective Collaboration Optimizes Patient Care. Am J Med. 2024 Sep;137(9):818-824. doi: 10.1016/j.amjmed.2024.05.013. Epub 2024 May 22. PMID: 38782247.
コメント