黄色ブドウ球菌菌血症(SAB: Staphylococcus aureus bacteremia)は、致死率が高いことや合併症を起こすことがよく知られています。しかしこのSABに対して他の医師がどのようにアプローチしているのかちょっと気になりませんか?
今回はClinical Infectious Diseasesに掲載された世界中の医師を対象にしたアンケート調査についてご紹介したいと思います。
Global difference in the manegement of Staphylococcus aureus bactemia: no international standard of care
参加医師は、71カ国2031人にもおよびます。内訳は北米35%、欧州28%、アジア20%、オセアニア9%、南米6%、アフリカ2%です。回答者は、感染症専門医(成人)74%、臨床微生物学者10%、内科医6%、感染症専門医(小児)5%で、44%は10年以上の感染症コンサルト業の経験があり、13%は感染症プログラムの研修中でした。
抗菌薬治療
抗菌薬の選択に関しては大陸間で大きく異なっています。
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の第一選択薬は、北米ではセファゾリンが最多(78%)、他の全ての大陸では抗黄色ブドウ球菌用ペニシリン系抗菌薬が選択されています(51%~82%)。アジアでは抗黄色ブドウ球菌用ペニシリン系が52%、セファゾリンが36%となっています。
一方、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の第一選択薬は、全ての大陸でバンコマイシンが選択されていました(ただし53〜97%とばらつきはあり)。ダプトマイシンは、欧州の23%で選択されていたが、他の大陸では10%未満でした。アジアではバンコマイシンが85%、ダプトマイシンが2%という結果でした。
(Dr. Monの感想)日本には抗黄色ブドウ球菌用ペニシリン系抗菌薬がなくセファゾリン一択となります。北米では、中枢移行もある抗黄色ブドウ球菌用ペニシリン系抗菌薬が第一選択薬と思っていたので予想外でした。そういえば最近セファゾリンは中枢神経感染症いけるかもしれないというデータが出ていますが、先日開催されたIDWeek2023でセファゾリンによる中枢感染症の投与量は1日12g(!)だったそうです。抗MRSA薬の選択に関しては日本と同じような感じでしょうか。
リファンピシンの追加
人工物感染などでは、抗バイオフィルム効果を期待してリファンピシンが併用することがしばしばあります。
欧州からの回答者の94%が、心臓デバイス、血管内デバイス、人工関節、人工弁、脊椎の人工物の感染うち少なくとも1つでリファンピシンを併用するとしています。オセアニアとアフリカではリファンピシンを併用する頻度は少なくそれぞれ26%、38%となっています。
アジアでは、全ての人工物感染に対して46%、いくつかの人工物感染に対して42%、全く使用しない12%でした。
(Dr. Monの感想)個人的には、併用禁忌薬や注意薬などがなければ人工物感染でリファンピシンの併用を比較的行っていますが、意外と使用されていないのだなと感じました。あとは使用開始タイミングや投与量なんかもみなさんどうされているのかが気になりました。
内服抗菌薬スイッチ
SABに対して北米の75%の医師は内服にスイッチしていないと回答。一方、欧州では55%の医師が内服スイッチしていると回答しています。オセアニアを除く全ての大陸の医師が合併症のないSABでは内服スイッチすると回答しています(51〜71%)。また半数以上が皮膚軟部組織感染症由来のSABでは比較的安全に内服スイッチできると認識していた。脊椎椎体炎でのSABに対する内服スイッチに関しては見解にばらつきが見られた。内服スイッチの基準として、回答者の多くが賛同したのがソースコントロールができていることと中枢神経感染症がないことであった。
内服スイッチするかどうかは、例えば外来での点滴治療が継続が可能な状況であることも要因のひとつかもしれません。しかしどの場面で経口スイッチするかについてはコンセンサスがないためこれに関するRCTなどは必要となります。SABATO試験やSNAP試験の結果は参考になるかもしれません。
SABATO(Staphylococcus aureus bacteremia antibiotic treatment options)試験
SABATO試験の結果は、プレプリントではありますがSAB合併症の低リスクの患者では経口スイッチが標準的な点滴治療と非劣性と報告されています。
SNAP(Staphylococcus Aureus Network Adaptive Platform)試験
治療期間
SABに関連する疾患に対する治療期間は多くの地域で同様でした。例えば自然弁感染性心内膜炎(6週間)、敗血症性関節炎(4週間)、脊椎椎体炎(6週間)であった。全ての大陸で、2週間以上の治療をおこなう理由として治療開始後48-72時間で行った血液培養で再度陽性となった場合ということを挙げています。同様に、免疫不全患者に関してはばらつきがあり、2週間以上の治療を行う理由として北米では72%だったが、欧州では43%にとどまっています。また市中感染のSABという理由で治療期間を延長するのは20-41%に過ぎなかった。
(Dr. Monの感想)治療期間については以前のブログでも触れましたが、合併症のあるSABについてはほぼ同一の見解のようですね。
18-FDGPET/CT
18F-FDG PET/CT検査は、転移病巣の検出率が高いため、SAB患者の管理において使用することは死亡率を低下させる可能性があることが観察研究によって報告されています。そのため最近米国ではSAB患者に対する18F-FDG PET/CT検査の保険適応を提唱する呼びかけがなされています。
SABの診断ツールとして利用可能か、保険適応かなどについては地域によって有意に異なっていた。いずれも欧州で最も高く、アフリカで最も低かった。SAB患者に対する18F-FDG PET/CT検査が利用可能なのは、アフリカの9%、南米の29%からヨーロッパの78%まで幅があった。18F-FDG-PET/CT検査は、欧州94%、オセアニア83%、南米61%、アジア57%、北米51%の医師がSAB患者に使用していた。どのようなSAB患者に18F-FDG PET/CT検査を指示したかというと続性菌血症の患者であった。すべての大陸の医師の62%~70%がこの適応のために18F-FDG PET/CT検査をオーダーしていた。
(Dr. Monの感想)近年、不明熱の診断や感染性心内膜炎のガイドラインでもとりあげられている18F-FDG PET/CTですが、日本では保険適応となっておらず私自身もその目的で使用したことはありません。確かに持続菌血症の際に、やむをえず原因検索のためにGaシンチまでとることもありますので保険適応となれば18F-FDG PET/CTは有用なツールになりますね。
持続菌血症
持続性SABの臨床的定義は各大陸で大きく異なっている。最も頻度の高い持続性SABの定義は、適切な治療にもかかわらず、血液培養陽性が少なくとも3〜4日間続くことであり、どの大陸でも33%以上の医師がこれを採用している。しかし、欧州(31%)と南米(24%)では、2日以上の血液培養陽性期間のみで持続性SABと回答した医師はかなり少数派であった。対照的に、アジアの医師の38%は、7日以上の血液培養陽性が持続性SABであると回答した。ほぼすべての医師が、持続性SABの場合には追加の診断検査を行うと回答し(アフリカでは79%、他のすべての大陸では90%以上)、過半数の医師が抗菌薬の変更も検討すると回答した。
この論文のディスカッションでも述べられているように、これだけ遭遇頻度が高く重要な感染症にも関わらず、世界標準的な対応がないというのは改めて驚きました。今後SNAP試験のような多国間の臨床試験の結果が出てくることでわれわれの日常の診療に反映されくるとは思いますが、臨床的な定義や治療戦略の標準化は今後の課題ですね。
Global Differences in the Management of Staphylococcus aureus Bacteremia: No International Standard of Care. Clin Infect Dis 2023; 77(8): 1092-1011. PMID:37310693.
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